フクワライ
現在は「図書館」シリーズに恋をしています。 愛を胸に!
eyes and...(堂郁)

注意深い人とそうでもない人。
図書館戦争初SSです。
書きやがったよこいつとあざけってください





eyes and...






「大丈夫?」
「俺は怪我ひとつない」
わざと的をはずしての返答に、小牧は苦笑した。
そして笑みはそのままに、
「怪我ひとつでもしていれば、数倍楽だったのにって思ってるね」
えぐるようなことを言う。
堂上は、ロッカーの扉を叩きつけるように閉じた。


ペイント弾を使用しての演習戦で、笠原郁士長がペンキまみれになった。
それだけのことだ。
他にも同様の憂き目にあった隊員はたくさんいる。
だが問題なのは、


「かばったあ?」
「いや、かばったっていうのは違うんだけど・・・なんか、堂上教官がしんがりで苦戦してたから、
戻っていったら、撃たれちゃった」
「・・・あらー」
着替え一式をシャワー室まで持ってきてくれた手前、事情の説明を求める柴崎には逆らえない。
水音の向こうで、それでそれでと続きを促してくる。
「小牧教官に、すんごい笑顔で、すんごい怒られた」
「でしょうねー」
「この後は、堂上教官から呼び出し」
「ご愁傷様。せいぜい愛のムチをあびてきなさいな」
「やあめてよー!気持ち悪い言い方すんの」
キュ、と湯を止める。あっという間に体が冷気に包まれ、さすがに震えた。
「ううっ寒いータオルー」
「はいはい」

でもあたしだって堂上教官の立場だったら怒るわよ。阿修羅のごとく怒るわよ。
自分が教官の立場だったらって考えてみなさいな。

なあんてねーとごまかされたものの、郁は別れ際に受けたその言葉に結構なダメージを食らった。

――そうだよね。
呼び出された教練場まで小走りになりながら、、頭の中がみるみる冷えていった。
隊列を無視して、隊長役を務める小牧教官の制止も聞かずに。
スチャラカが売りの特殊部隊員が誰ひとりとして、ペンキまみれの姿を笑ってはくれなかった。
もしもそれが、実弾だったら。
笑い話ではないのだ。
「気がついたら走ってました」
弁明にもならない弁明を聞きながら、堂上は視線を合わせようともしなかった。

話があるから後で来い。去り際にそれだけ言い捨てて。
久しぶりに、怖いと思った。

日も落ちた教練場は、すでに暗い。
堂上の姿は無かった。
愛想を尽かして先に帰ってしまったのではないだろうか。
いよいよ、叱るのも無駄だと思われてしまったかもしれない。
――寒い。
髪も乾かさずに来たことに今さら気づいた。

「帰ろうかな・・・」
「いい度胸だな」
間髪入れずに背後で声が響く。
振り返ると、ずんずんこちらへ近づいてくる仏頂面。
「上官の呼び出しも無視か?
あほうかおまえはあほうなんだなこの、アホウが!」
すぱーんと、目線が下であるにも関わらずの右掌クリーンヒット。
「い、痛いです!」
頭頂部を押さえ、思わず睨みつける。だが、
「歩くぞ」
言うなりさっさと歩きだした上官に、次ぐ言葉を失う。慌ててその後を追った。




――――――――――――――――――――――――――――




歩くぞ。
言われるまま、教練場のトラックの上を、二人して黙々と行くこと数周目。
春先とはいえまだ冷える夜の中、この光景はけっこうおかしなものになっているはずだが。
郁は目の前の背中を窺う。
何も言ってこない。
ただぐるぐると、歩くだけ。
――何か言ってほしい。

違う。何か言うべきなのは自分のほうだ。

「あの」
返事はない。
「申し訳、ありませんでした」
コンパスを活かして眼前に回り込むことはできなかった。消え入るような語尾に、自分を叱咤する。
しっかりしろ!!
「あの!!!」
「聞こえている!!」
いきなり振り返られて、郁は思わずうわ、と声をあげた。反射的に頭をかばうあたりが、悲しい習性だ。
「うわとはなんだうわとはっ」
「す、すみませんっ」
「別にはたいたりせんから、その手もやめろ」
「はい・・・」

そろそろと手を下した郁の前まで歩み寄ると、深く静かに息を吐いた。
「あのな」
「はい・・・」
「お前が理詰めで考えられるやつじゃないことは、もうさすがにわかってる」
「はい・・・」
「小牧はお前を十二分に指導した。
あと、玄田隊長から反省文100枚を提出するように言われてる事も知っている」
「はい・・・」
「加えて、柴崎にも多少トゲのある言葉をいただいたってところだろう」
「はい・・・それはもう」
「そもそも、直属の上官とはいえ今回の演習においては一兵卒を務めていたにすぎない俺が
その件についていつまでもがみがみと指導を行う権利はないと思ってる」

え、とうつむいていた顔を上げる。

怒っていない?

とんでもなかった。

「――だからこれは単なる八つあたりだ」

恐ろしい目をした堂上が、すっと息をすう。

「気がついたら走り出していたたなんていうのは論外もいいところだこの馬鹿!!
脳はどこに置いてきた!!!殺す気かアホウ!!!」
「はい!!!すみません!!!」
郁はこれ以上縮めないというところまで縮みあがる。
確かに拳は飛んでこないが、これはもう、言葉で殴りつけるというやつだ。

「俺は寿命が縮んだ!!10年分は縮んだぞ!!!」
「わーすみません!!」
「しかもよりによって真っ赤なやつを喰らうやつがあるか!!スプラッタにもほどがある!!」
「すみませんっ!」
「血まみれのお前が夢に出てきたらどうしてくれる!!!」
「えええすみませんどうしましょうっ」
「知るか!!!」
「ゆ、夢に見たら携帯なりで呼び出してくださいっ!」
「なんでそうなる!」
「げ、元気で生きてるところをお見せしに行きますからっ」

瞬間、堂上の勢いがそがれたように感じた。
ぱし、と頭頂部をはたかれる。
力がこもっていない。

「馬鹿、いい。そういうことじゃない」
「・・・わかってますっ」


堂上は、吸いこんだ息の分だけ怒るものとしていたかのように、
息を吐き、それきり黙ってしまった。
郁はまたうつむく。
沈黙が再び辺りを包んだ。


「ああ、でも」
堂上がそれを破る。
「頼むかもしれないな。夢に見たら。いいかもしれん」
らしくもなく、冗談めかされているらしいその言葉に、郁は急に泣きたくなった。
そんな夢はみせたくないのに。
心配させてばかりだ。
あの時、弾を受けた瞬間に見た堂上の顔を思い出す。


「以上、八つあたりは終了だ。文句は受け付ける」
「・・・すみません」
「謝るな。言ったはずだ、これは八つあたりなんだ。――本当に」

本当にな、と自嘲するようなつぶやきが聞こえて、いよいよ泣けた。

「堂上教官」

再び足を踏み出した堂上に気づかれないよう、目元をぬぐう。

「あたし、本当に呼び出してもらえたら飛んでいきますから」
「あほか」
「あほとはなんですか、本気ですよ」

語気を強めながらも、まだ気おくれしているのだろう。
数歩遅れてついてくる足音に、堂上は苦笑する。
歩調を緩めて、郁の隣に並んだ。
手を頭に置いて、まだ少し湿っている髪をぐしゃぐしゃとやる。
「師の影を踏まずってガラでもないだろうが」
「シノカゲ?」
「・・・いい、なんでもない」
「あーまたそういう」


二つの影がつかず離れず、月明かりの中を行く。


「結構、いい光景だと思わない」
教練場も見違えるねえ、とカップ酒をすする小牧の横で、
「げ、もう一周トラック回るつもりですよあいつら」
柴崎が形の良い眉を寄せる。
出歯亀の輪に加わるまいという抵抗がみてとれる手塚が、
「あいつらってお前、上官相手に・・・」
数歩下がった位置からたしなめた。






―――――――――――――――――――――――――――――――



書いていると楽しいのに読むと暗いな!あっれー
夜中にぐるぐる歩き続ける2人が書きたかっただけなんですが。
なんかちがうのできた。
読んでくださった方、ありがとうございました







この記事に対するコメント

郁ならやりそうですね・・・。
赤いペイントだったのか・・・堂上かわいそう・・・!
小牧の説教だけは嫌ですねぇ。
ハラハラさせて頂きました〜。
【2008/05/18 00:11】 URL | 胡蝶 #-[ 編集]


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プロフィール

Author:hukuno
首都圏に生息してます。
<更新情報>
・7/02「誓いの傷」(堂郁SS)
・7/01「オールザットアイウォントフォア」(手柴SS)

・ロイアイ祭に参加させていただきます
(献上品は執筆中・・・苦戦中)

拍手が生きる糧です(涙)
ありがとうございます!


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